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アレンジ自在?!江戸時代から伝わる徳島県「半田そうめん」を次代へ繋ぐ

徳島県・つるぎ町半田地区。

目の前にはかつて水運に利用されていた吉野川が流れ、見渡せば四国山脈に囲まれた美しい景観が広がるこの山間部に、江戸時代から伝わる食文化『半田そうめん』があります。

そうめんとは思えない太さとコシが特徴の半田そうめんは、今では県外の飲食店でも扱われるようになり、都市部にお住いの方でも一度は耳にしたり食したことがあるかもしれません。

そんな半田そうめんの普及に大きく貢献されているのが、1977年創業の製麺所「北室白扇」三代目、北室淳子さん。先代のあとを継いでから、豊かな感性と人望で自社のみならず産業自体の活性化のために尽力されています。

北室白扇 三代目・北室淳子さん

失敗から生まれた愛され名物、半田そうめん

半田そうめんの、この独特な太さとコシはなぜ生まれたのか。
淳子さんから返ってきたのは、意外な言葉でした。

淳子さん「今の半田そうめんが作られるようになったのは、戦後になってからです。半田という地名そのものが表しているんですけど、ここは山間部にあるから耕作地が狭くて稲作が難しかったんですよね。それで農業とセットでそうめんを作るようになったんです。

ではなぜ麺が太いのかと言われれば、”うまく作れなかったから”なんです。

細い麺のほうが高く売れるから細く作ってはいたのですが、中には太くなってしまうことがあって。そのうまく作れなかったところは高く売れないから自分たちで食べるようになったんです。そしたらそれが安い上にうどんっぽくて美味しいじゃんって人気が出るようになって。」

山間部に位置する半田地区(提供写真)

まさかの失敗作から生まれた、半田そうめん。

隣の香川県がうどん文化であるため、半田でも各家庭でうどんを打つくらいうどんが根付いていたといいます。そんな住民たちからすると、太くてコシのある”失敗作”は、安い上に好みだったというわけです。

淳子さん「うちの麺は、コシと喉越しが売りです。うどんのようなコシをより強く出すために、うどんで使われている小麦粉を使っているんですよ。最近は極太麺も作っていて、男性ファンが多いですね。」

左が通常の麺、右が極太麺

守りながら、新しい挑戦へ

そうめんなのに、太くてコシがある。

唯一無二の存在感を誇る半田そうめんですが、全国の伝統産業が抱える問題にやはり直面しています。

淳子さん「組合に入っている製麺所が以前は40社あったんですけど、今では23社。徐々に高齢化や時代の流れで、自分たちの代でやめようって廃業するところが増えてきています。

それも、昔ながらの手延べの製法だったり、外で麺を干すなど、個性的な製麺所がやめていってしまっているんです。これが本当にもったいない。資料化するなり動画におさめるなりしっかり残して、なんとか次代へと残していきたいんです。」

外で麺を干す風景は、かつては半田地区全体に広がり、ひとつの風物詩でもあったといいます。その伝統的な製法をとる製麺所も年を追うごとに減っていき、今ではなかなか見かけることはできません。

北室白扇の麺を干す風景

一方で、次代に半田そうめんを残していくためには、変われない部分と変われる部分をしっかり分けて考えことが大事だと淳子さんはいいます。

淳子さん「後継者を育てるためには、ある程度近代化・機械化しないと継げるものも継げません。人は歳をとるわけだから、体に堪えるものを続けていても長くは続かないでしょう?機械でもカバー可能な部分は機械を導入して、人の手が必要な部分、たとえば、麺の乾燥具合や固さといった、気候に応じた状況判断は人の目や感覚が必要ですから、そういう経験値を次代へと継いでいきたいと思っています。」

肝をなす変わるべきでないところは受け継ぎながら、持続可能性も重要視し半田そうめんの維持・発展に取り組む淳子さん。その活動は製麺だけではなく、半田そうめんが日常のシーンのひとつになるよう、太さとコシを活かした食べ方のアレンジも提案しています。

淳子さん「かつては、一般的なそうめんの食べ方しかしなかったところを、焼きそばみたいにして食べる、中華麺の代わりに、パスタの代わりに、うどんっぽく、色々な国の食べ方を楽しむレシピ開発もしているんです。半田そうめんは満腹感もありますから、こうやってアレンジが盛り上がってきてくれているのは嬉しいことです。」

和洋中問わず、様々なアレンジレシピが公開されている

徳島でアレンジそうめんが食べられるお店『heso salon』

淳子さんがレシピ開発したメニューを食べられるお店が、徳島県内にもあります。国内外の観光客から人気の三好市池田町、阿波池田駅へと続く商店街にある『heso salon』です。

heso salonを営むのは、関東からの移住者である西崎健人さん。飲食店ではありますが、「人と人とが出会う場」を大事に考えサロンと名付けたそう。店内には地域の特産品や観光グッズなども並んでいます。

こちらでは淳子さんが開発した半田そうめんのレシピをベースに定番メニューと月替わりメニューを用意しており、特に最近の月替わりメニューである台湾風まぜそばが地元の方にも大人気。反響の大きさを受けて、初めて期間を延長したんだとか。

取材したその日も、地元のおばあちゃんが「ここのは美味しいから」とそうめんを食べに来ていました。取材班も定番メニューをいただきます。

半田そうめん(ドリンク付き) 800円~(税別)

やはり太い。

そして、そうめんと言われないと分からないくらいコシがあり、これだけ具だくさんでも負けない存在感があります。

でも、味はといえば確かにそうめんなんです、それが不思議な感覚。そうめんらしいツルッとした喉越しが箸を進め、あっという間に完食してしまいました。麺類に目がない筆者としては、これはハマってしまいそうです。

店名:
heso salon

住所:
〒778-0002
徳島県三好市池田町サラダ1804-9

電話番号:
0883-70-0166

営業時間:
10:00〜23:00

定休日:
月曜日

ウェブサイト:
https://www.facebook.com/hesosalon/
https://www.instagram.com/heso_salon/

取材中、電話を取りつぎにきたスタッフさんに触れ、淳子さんが話してくれた言葉が胸の中に残っています。

淳子さん「自分が小学3年の時から働いてくれている人もいて、私にとってはその人は今も変わらず『おばちゃん』。みんな私が子供の頃のことを知っているから、いつまでたっても私はペーペーなんですよ(笑)。そうやって家族的で変わらぬ関係が続くところが、地場産業のいいところですよね。」

汎用性がきくちょうどいい太さのため、様々なアレンジができるまさに”万能麺”。保存もきくからギフトとしてもちょうどいい。

地元の方が大事に大事に受け継いできた半田そうめんは、淳子さんを中心とした次代を担うキーマンたちの手によってより多くの人に愛されていくに違いありません。

店名:
北室白扇

住所:
〒779-4401
徳島県美馬郡つるぎ町半田字松生108-5

電話番号:
0883-64-3234

営業時間:
8:30〜18:00

定休日:
第2・第4土曜日、日曜日、祝日

ウェブサイト:
https://www.kitamuro.co.jp/index.htm (Japanese only)

Writer
羽田裕明
Photographer
羽田裕明
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