日本のフードカルチャーガイド

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日本最多、定番から創作まで 進化する福岡名物「屋台」に迫る

新風が吹き込む!?日本最多100軒ほどの屋台

日本一多くの屋台がある福岡市。夕方になると市街地に立ち並ぶ屋台は、あたたかな光とおいしそうなにおい、そしてにぎやかな笑い声に包まれて、風情ある雰囲気を醸し出しています。

福岡市の屋台文化は、第二次世界大戦後の混乱の中、路上に簡易な店舗を作ることで始まりました。その数はどんどん増え、50年ほど前のピーク時は400軒以上に。それから徐々に姿を消し、今では100軒ほどになりました。

実は一時期、屋台が無秩序に道路を占有したり、衛生面の問題なども指摘されて、混沌とした状態に…。しかし「屋台を残したい」という熱い思いから、福岡市は2013年に日本初の「福岡市屋台基本条例」を制定し、適正化に取り組んできました。さらに2016年「屋台公募」が始まり、福岡の屋台文化に新たな風が吹き込まれています。

屋台を利用する年齢層・使い方が多様化

福岡の屋台には、どんな特徴があるのでしょう。福岡市まつり振興課の屋台担当者は、こう説明します。「福岡市の屋台は3m×2.5mの中で営業するというルールがあり、追加で机やイスを外に出すことができません。そのためお客さんはカウンターで肩を寄せ合い、隣に座った知らない人とも会話が弾むのです」。なるほど、福岡の屋台は人情味があふれていると聞くけれど、人と人との距離の近さが影響しているというわけです。

ここでひとつの疑問が湧いてきました。そもそも福岡市民は屋台に通っているのでしょうか。2018年度市政に関する意識調査によると、「屋台に行ったことがある」福岡市民は回答者の7割強。「年に数回以上行く」人の割合は、女性(7.5%)より男性(17.4%)の方が高く、通うのは30・40代男性がメインという結果でした。一方、最近は18歳から29歳女性の利用が増え、そのうち34%は「夕食や晩酌のとき」に屋台を利用しています。かつては中年男性が飲みの二次会や締めに利用していた屋台を、近年は若い女性が夜ご飯の店として利用する…そう、新しい屋台文化が芽生えているのです。

福岡屋台の名物といえば、やはり豚骨ラーメン。屋台によってこだわりがあり、味はさまざまだ
おでん、餃子、焼きラーメン、焼き鳥などが一般的なメニューだ

安心でお得な「屋台きっぷ」は要チェック

さて、予習はこのくらいにして、実際に屋台に行ってみよう…と思ったものの、市内に約100軒もある屋台からどこを選べばいいのか迷います。すると「屋台きっぷ」なるものがあると聞き、企画・発行元のイデアパートナーズへ。代表の井手修身さんによると、福岡市の屋台は天神・中洲・長浜の3エリアにあるとのこと。ただ、「ふらっと入りにくい」「会計が不明瞭で観光客に不親切」という声が多かったため、“地元の人が行く屋台”を厳選し、チケット1枚1,050円でドリンク1杯+屋台おすすめメニューを楽しめる屋台きっぷを企画。すると、お得かつ安心と好評でよく売れているそう。現在は、地元の常連が多い天神エリアを中心に12屋台(2019年7月現在)が参加しており、「福岡のまちを楽しんでもらうきっかけになれば」と井手さんは語ってくれました。

代表の井手さん(右)と、屋台きっぷ担当の山野史織さん。7月には「うどんきっぷ」の発売もスタートするなど、ユニークな企画で地域を盛り上げている
「屋台きっぷ」には各店の紹介とマップが載っている

屋台きっぷ
販売場所:福岡市観光案内所(博多駅総合案内所)、福岡市観光案内(天神)、チケットポート福岡パルコ店、博多エクセルホテル東急、ホテルニューオータニ博多
https://yatai.chikets.com/
※購入は1枚1組
問合せ:イデアパートナーズ TEL:092-401-0877(10:00-18:00/平日のみ)

天神エリアで個性が光る人気店をはしご

「屋台きっぷ」で紹介されている2つの屋台に行ってみることにしました。
まずは、天神の大丸福岡天神店前に店を構える「博多っ子純情屋台 喜柳(きりゅう)」へ。こちらは12年前から営業しており、平日でも開店直後からズラリと長い行列ができるほどの人気店です。「いらっしゃいませ」と威勢よく迎えてくれた大将は、お客さんの注文を受けて手際よく調理しながら、「暑くないですか?」とうちわを差し出したり、会話を楽しんだり。常連らしき人から外国人まで肩を寄せ合い、実に気持ちのいい時間が流れていました。
気になるメニューは、博多屋台の定番・焼きラーメンや明太子料理をはじめ、梅ヶ枝餅の生地であんを包んだもちもち餃子、創作料理まで豊富なランナップ。しかも屋台きっぷ1,050円で、大将オススメの2品ハーフ、名物のモチモチ餃子ハーフ、1/2ラーメン、アルコール1杯がいただけるという太っ腹ぷり。通いたくなる名店でした。

活気あふれる喜柳
屋台きっぷを使えば、こんなに飲んで食べて1,050円と格安だ
「人と人の触れ合いが楽しいですね。ここで出会って13組のカップルが結婚したんですよ」と大将

喜柳
営業時間:19:00~翌3:00
TEL:090-9721-9061

ほろ酔い気分で「もう1軒!」と向かったのは、同じ天神エリアの「ジビエ屋台 情熱の千鳥足(ちどりあし)」。西中洲にあるジビエ料理専門店の2号店で、九州産の鹿や猪などを一頭買いで仕入れて提供するほどの本格派です。ジビエのメニューがそろう屋台は、おそらく日本中を探してもこちらだけでしょう。
屋台らしい串焼きとおでん、鉄板料理に加えて、注目したいのは店内に掲げられた「今日のおすすめ」。季節や仕入れ状況によって、猪フィレ鉄板焼、鹿ロース鉄板焼、合鴨の炙り、ジビエ肉と野菜の炒めなどが登場します。この日に注文したのは「鹿ソーセージと夏野菜のパルミジャーノレッジャーノ」。和食とイタリアンで修業したシェフが、鮮やかな手つきで美しい一皿を仕上げてくれました。関東から旅行に来ていた女性グループから、思わず「わー!」「すごい!」と歓声が。見た目も味わいも屋台とは思えない完成度の高さに、女性の常連客が多いというのもうなずけます。

情熱の千鳥足があるのは天神ロフトの前
鹿ソーセージに旬の野菜とチーズを添えた逸品1,200円
ワインに合うメニューも多く、いつも女性客でにぎわっているそう

情熱の千鳥足
営業時間:18:00~翌1:00
TEL:090-5690-6855

福岡の屋台といえば、長きにわたって豚骨ラーメンや焼きラーメン、おでん、焼き鳥、餃子などが定番でした。一方で、近年はフランス人シェフによる創作フレンチ、ロンドンで腕を磨いた店主のこだわり料理、天ぷら、中華、ふぐ、あごだし料理など個性豊かな店が続々と登場しています。少しずつ進化することで若者・女性・外国人客の心までつかんできた屋台、ぜひめぐってみてみませんか。

Writer
佐々木恵美
Photographer
窪田司
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