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海外比率が90%!伝統と革新で世界を動かす、広島県・府中味噌の雄『金光味噌』

 
味噌といえば、日本人なら誰しもが思い浮かぶ日本を代表する食文化。
そんな”THE・日本”の食文化でありながら、売上の90%を海外で占める味噌蔵があるんです。

広島県府中市。
この地で400年伝わる府中味噌を、今もなお引き継ぐ「金光味噌」がその味噌蔵。

なぜ金光味噌の作る味噌は海外から引っ張りだこなのか?
金光味噌3代目の金光康一さんにお話をうかがいました。

お話をうかがった金光味噌代表の康一さん

 
減塩味噌の先駆け的存在、府中味噌

広島県府中市は、良質な水を供給する中国山地に囲まれた盆地で、古くから醸造の盛んな地。この地で作られていた府中味噌は、もともとは家内製造だったものを地元の豪商が企業販売ルートに乗せたことが端を発し、奈良で開かれた博覧会で白味噌を出品し最高賞を獲得したことでその名は全国に知れ渡ることになったそう。

府中味噌の特徴は、時間をかけた自然醸造と麹の割合。麹が一般的な味噌に比べ多いため、塩分が少なく、減塩味噌の先駆けとなっています。しかし、時代の流れによって、もともと10軒以上あった味噌蔵も今では3軒のみです。
 
決め手は“オーガニック”。金光味噌が海外に支持された理由

そんな古くからの製法を守るのが、1872年創業、147年目を迎える金光味噌。もともとは醤油・味噌・酒を作っていましたが、このなかで味噌の発酵は蔵によってもっとも大きな違いが出るという見解から、初代が味噌に一本化。以来、3代にわたって味噌を作り続けています。

府中味噌の伝統製法を守りながら、金光味噌がさらにこだわっているのが”オーガニックであること”。

このことが、冒頭に触れた海外売上比率90%に直結します。

「2代目であるわたしの父が、食の安心安全にこだわりがあったんです。一方で、アミノ酸等の調味料が使われているような味の濃いものが好きだったわたしは、家の食事がすごく不満で。それで父とは対立していたんですけど、あるときふと思ったんです。”調味料だけでこんなに味が変わるのって、ちょっと恐ろしくないか?”って。」

オーガニックにこだわった製法は海外の耳にも届き、1982年から世界的なオーガニック基準であるOCIA認定を継続して取得。当時の日本は大量生産時代、90年代に金光味噌は国内のスーパーから撤退し、自然食品やオーガニックフードを扱う海外のホールフーズ・マーケットへと舵を切ったといいます。

「わたしたちはオーガニックと伝統製法の2軸で営んできました。日本のスーパーは画一的ですが、海外は変化に富んでいるんです。そうした場にわたしたちの味噌が受け入れられたんだと思います。」

頑なに旧来のやり方に固執していた取引先や同業者がこの15年くらいで畳まざるをえなくなっていく中、康一さんが2013年に3代目社長となって以降、金光味噌は攻めに転じます。

「伝統を守りながら、時代に合わせて変化することこそがイノベーションだ」とパッケージも海外のニーズに沿ったデザインに一新。製造過程も、これまでの”見て学べ”というスタイルではなく、数字でデータ化し再現性を最大限高めながら機械化可能な部分は進め、ニーズに応える生産能力を確保。全国から若手社員も積極的に採用しています。

一般的な味噌のパッケージからは想像がつかない金光味噌のデザイン

 
100年以上変わらぬ「金光菌」と生きる

より具体的なお話をうかがうべく、ツアーで公開している金光味噌の心臓部、蔵へと案内してもらいました。海外の厳正なる認定基準を守るため、消毒やマスク等をして中へと入ります。

まず案内してもらったのが蔵の3階。ここにあるのは大豆を蒸す大きな鉄の釜です。

大豆は油分を多く含むので、通常ならば錆びないようにステンレス製の釜にすることが多そう。けれども金光味噌は、熱伝導率の高い鉄の方がより美味しく大豆を蒸すことができるため、はじめからメンテナンスの大変な鉄の釜を使っているんだとか。

そして見上げてみると、柱や天井にあったのは大量のカビ。この菌たちは発酵の肝となる”金光菌”とライバル関係。金光菌も相手がいないと強くならないということで、このカビたちも金光味噌の味を生むのに必要不可欠な存在というわけです。

ひとつ下がって米麹のフロアへ。

米麹の釜で蒸したのち冷却した米に麹菌を植え付けると菌糸が伸びてくるのですが、この菌糸が大きければ大きいほど味噌も醤油も酒も美味しくなると言われています。それをこれまでは一種の肌感覚でやっていたところを、康一さんがデータ化に成功し再現性を高めています。

米麹の肝となる日本麹カビ

1階では、杉樽がずらりと格納されています。

この杉樽が金光味噌の最大の特徴で、西日本で味噌を大量生産できるメーカーだと金光味噌くらいしかこの杉樽を使っていないそう。というのも、かつて日本の食品衛生局が杉樽を禁じ、各社捨てることを余儀なくされたのです。金光味噌は当時から海外売上が大半だからいいだろうと捨てなかったといいます。

この杉樽には熟成中の味噌が寝かせてあり、熟成が進むとどんどんと膨らみ、樽の上から溢れてくるそう。まさに杉樽には菌が住んでいるのです。だから綺麗に洗い切ることもしない。味噌は水分活性値という食中毒になる原因の値がものすごく低いため、菌を残すことを優先しても衛生上問題ないというわけです。

杉樽から流れ出てくる塩麹が固まったもの。これが濃厚で旨い

蔵を見させていただいたことで、一朝一夕ではなく、長い年月の積み重ねで生まれているのが金光味噌だということが改めてよくわかります。金光菌は、確かにこの蔵で生き続けているのです。
 
日本のいい食文化を伝える尾道の食事処「こめどこ食堂」

約150年間、こだわりの製法で味噌を作り続ける金光味噌。この金光味噌を使った料理は、府中市から近い尾道市の「こめどこ食堂」でいただくことができます。

こめどこ食堂はお米と発酵をテーマに、「心と体にいいもの」をコンセプトにしている食事処。当初は業務用の味噌を使っていたそうですが、金光味噌に出会い、その美味しさに感動し、お店のコンセプトにもぴったりであることから、今ではほぼ全てのメニューに使っているそう。

「熟成したものは旨み成分がすごいんです。これは店では作れないと思いました。味に深みがあるから、少ない調味料でいいんです。」

そう話してくれたのは、こめどこ食堂の調味料に金光味噌を採用した宮澤さん。前に金光味噌で味噌コロッケを作ったところ、麹の力でじゃがいもがドロドロになったことから、”味噌が生きている”ということを目の当たりにし、金光味噌のすごさを再認識したそう。

「最近では味噌汁を家で作らなくなったり、酢の物離れ、煮物離れ、出汁を取らず、添加物ばかりの食生活になっているでしょう?若い人たちに日本のいい食文化があるということを知ってほしいし、わたしたちからの提案でもあるんです。」

ランチのお味噌汁ではもちろん金光味噌を使っていますが、今回いただいたのは”味噌パレット”と”太刀魚の塩麹レモン焼き”。味噌パレットは季節によって食材を変え、金光味噌の味をダイレクトに味わうことができます。

太刀魚の塩麹レモン焼き(左)と味噌パレット(右)

金光味噌の美味しさは一言で言うと”旨み”。単調な味ではなく熟成されたことによる奥深さがあるといいます。一般的な味噌に比べると塩分は少なめとはいえ、塩分がないわけではないですが、熟成によってカドがとれ、旨みが上回っていると宮澤さん。

「どこのホテルに泊まってもここ以上に美味しい食事はなかった、と海外の方が言ってくれたりもします。海外の人がそこまで感動してくれているから、日本人も日本の食文化の素晴らしさを再認識してほしいですね」

店長の行里さん(左)と宮澤さん(右)

 
「こめどこ食堂」

<住所>
〒722-0036
広島県尾道市東御所町5-2 2F

<連絡先>
050-3374-3313

<営業時間>
ランチ:
火曜〜日曜 11:00〜14:00
ディナー:
火曜〜土曜 17:00〜22:00(L.O. 21:000)
日曜:17:00〜21:30(L.O. 21:000)

定休日:
月曜

ウェブサイト:
https://komedokoshokudo.gorp.jp/

 

発酵は、日本の食文化

「金光菌は金光味噌の蔵でしか生まれません。ここで作ったものが金光の味””になるんです。」

そう語ってくれた康一さん。

人間は初めて食べた酵母の味がその人のフォーマットになるそうです。海外ではそれが金光味噌だったから、100年単位でこの味にお客さんが戻ってくる。だから取引先はずっと変わらないんだとか。

確かに、よく実家の母親の味噌汁の味を”おふくろの味”と呼び、懐かしみまた帰ってきたくなるものであるのは、そういうことなのだと思います。

「これが発酵食品のすごさなんですよね」

400年続く府中味噌の伝統製法を守りながら、”いいものを食べる”という日本の本来の食文化を国内外に届ける金光味噌。国内では、飲食店以外にも地元の給食でも使ってもらっているそう。それも「日本の文化は”食”。子供たちにはちゃんとしたものを食べてほしい」という想いからはじめたそうです。

毎日のからだ想いの食生活に、味噌からはじめてみるのもいいかもしれません。
 
『金光味噌』

<住所>
広島県府中市府中町628

<営業日>
月曜〜土曜 8:00〜17:00

<定休日>
日曜

<ウェブサイト>
http://www.kanemitsu-miso.co.jp/

Writer
羽田裕明
Photographer
羽田裕明
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